コラム

 公開日: 2016-10-04 

勤務時間管理がルーズだと奥さん記載のノートでも証拠に!?

 貴社では、従業員の勤務時間管理をきちんとされていますか?

 出勤簿に出勤したか休んだかだけではなく、始業時刻と終業時刻、および休憩時間数も記録しておかなければ、とんでもない事になりますよ!

 従業員の奥さんが記載していた夫(従業員)の“帰宅時間”しか記載されていなかったノートでも一定の証拠能力が認められてしまうことがあるんです。

 ゴムノナイキ事件において、大阪高等裁判所は以下のように判示し、従業員の割増賃金の請求を認めました。以下にその判決の要旨(=判旨)を記します。

▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼ ゴムノナイキ事件(H17.12.1 大阪高裁判決) ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
 
【判旨】
 控訴人(=従業員)は、午後5時30分の終業時刻以降も相当長時間、大阪営業所に残っていることが恒常化していたというべきである。
 しかし、控訴人が具体的に主張している業務終了時刻については、平成13年5月から同年8月、及び平成14年4月から同年6月までの期間については、控訴人の供述を裏付ける客観性のある証拠は皆無である。
 また、平成13年9月から平成14年3月までの期間についても、控訴人の供述を裏付ける証拠は、前記の日直当番戸締り確認リストの記載のほかは控訴人の妻が記載したノートしか存在していない。
 そして、妻記載のノートも、帰宅時間しか記載されていないため、控訴人が途中で寄り道をした場合には、それだけでは退社時刻の把握が困難であるし(控訴人は、他の従業員を送っている日以外は寄り道をしたことがなく、他の従業員を送ったのは職務命令にもとづくものであると供述しているが、にわかに信用できない。)、控訴人が帰宅した際に妻が就寝していた場合には、控訴人が翌朝妻に帰宅時間を告げていたというのであるが、その時間は必ずしも正確なものではないというのであるから、上記ノートの記載により控訴人の退社時刻を確定することもできない。
 さらに、労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であると解すべきところ、控訴人の超過勤務自体、明示の職務命令にもとづくものではなく、その日に行わなければならない業務が終業時刻までに終了しないため、やむなく終業時刻以降も残業せざるを得ないという性質のものであるため、控訴人の作業のやり方等によって、残業の有無や時間が大きく左右されることになることからすれば、退社時刻から直ちに超過勤務時間が算出できるものでもない。
 しかし、他方、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら被控訴人(=会社)の責任によるものであって、これをもって控訴人に不利益に扱うべきではないし、被控訴人自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員が存在することを把握しながら、これを放置していたことがうかがわれることからすると、具体的な終業時刻や従事した業務の内容が明らかでないことをもって、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではないというべきである。
 以上によれば、本件で提出された全証拠から総合判断して、ある程度概括的に時間外労働を推認するほかない。

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 上記の判旨を読み進めていくと、途中までは会社有利な判決内容になるのかと思われたと思いますが、「しかし、他方、・・・」以降の部分で一転し、会社の出退勤管理の不備をつかれ、会社不利の判決となったわけです。
 
 勤務時間管理は会社の義務ですので、「始業時刻」、「終業時刻」、「休憩時間」はきちんと確認し記録しておくようにしましょう。
 さらに、それらを記録した出勤簿等には、1ヶ月が締った時点で、従業員本人に内容を確認させ、確認のサイン(署名)を取り付けておくようにすべきです。

 なぜなら、従業員本人のサインがない書類(出勤簿等)であれば、後から「それは会社が勝手に作成したものだからどのようにでも作成できる!」と反論されることが充分にあり得ますが、従業員本人のサインがある書類(出勤簿等)であれば、民事訴訟法第228条【文書の成立】第4項の定めにより、法律上は“真正に成立したもの”と推定され、反論の余地をつぶすことができるからです。

 それでも本人が「その書類(出勤簿等)は自分の真意でサインしたものではないから無効だ!」などと主張するのであれば、真意でサインしたものではない(=錯誤や強迫があってサインしたものである)ことを従業員自身が証拠をあげて立証しなければならないのです。錯誤や強迫があり真意でサインしたものではないことを証拠をあげて立証することは事実上きわめて困難です。
 よって、出勤簿等の内容を確認させ、ひとたび従業員本人のサインを取り付けておけば、後で何を言われようが、会社が勝てる可能性は断然高くなると言えるのです。

 ただ、この場合に注意しなければならないことは、記名や認印の押印ではなく、自筆のサインのほうが良いということです。
 なぜなら、記名(=ゴム印などを押す)ではまず本人が記名したものであることを立証することは困難ですし、認印についても、今のご時世、100円ショップに行けば本人以外の誰もが手軽に購入できることから、出勤簿等に押された認印が本人の認印であることを立証することは極めて困難だからです。
 しかし、自筆のサインであれば、筆跡鑑定をすれば簡単に証明できます。筆跡鑑定については、民事訴訟法第229条【筆跡等の対象による証明】第3項により、裁判所が相手方に筆記を命じ、それにより鑑定して証明することができることになっていることからも、自筆によるサインに勝るものはないのです。

 このような事をするのは手間に感じられるかもしれませんが、ご紹介した判例からも分かるように、手間を惜しんだ会社は紛争になった時は負けてしまい、大きな経済的損失を被ることになるのです。それを考えれば、多少の手間は惜しむべきではないと思います。

 経営者のみなさんにしっかりと認識しておいていただきたいのは、労使紛争のような民事紛争の場合、裁判所は真実を明らかにするところではなく、当事者が出してきた証拠にもとづき当事者の“利害調整”をするところに過ぎないということです。
 このように書くと、「では、裁判所は嘘つきの味方をすることもあるのか?」と思われるかもしれませんが、そうではなく、裁判所は『証拠を持っていない方の味方はしない』ということです。
 つまり、トラブルに備えて日頃から証拠を残す工夫をしていたかどうかが勝敗を決するということです。よく判例などを見ていると裁判所で「○○の事実を認定するに足る客観的な証拠はない。」との一言で一蹴されるケースがありますが、それは証拠らしい証拠を準備できていない方の味方はできないということです。これが『法律は自ら助くる者を助く』と言われるゆえんなのでしょう。

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