コラム

 公開日: 2016-09-16 

労使トラブルは労働基準法では解決できない!?

 貴社では労使トラブルが起きた際、どのように解決されていますか?
「労働基準法にこう書いてあるから。」ということで、労働基準法で解決しようとしていませんか?
 しかし、本当に労使トラブルが労働基準法で解決できていますか?

 実は、労働基準法では労使トラブルは解決できません。
 というのも、労働基準法は刑法などと同様に“刑罰法規”だからです。
 ご存知のとおり、労働基準法は、罰金や懲役などの刑事罰を背景として、事業主に対し様々な義務の履行を求めています。
 労働基準法に抵触した事業主の行為を有罪として刑事罰を課すか課さないかは、刑事事件としての処理であり、たとえ事業主が刑事罰を課されたことをもって、不当に侵害されて生じた従業員の損害が回復されるものではありませんよね?

 つまり、当事者間の一方(たとえば会社)の利益と一方(たとえば従業員)の利益がぶつかったり、一方(たとえば従業員)の権利が侵害されて損害が生じた場合、これは「不法行為(民法第709条)」や「債務不履行(民法第415条)」という問題が生じたということなのです。
 この問題をどのように利害調整して解決を図るか、はたまた双方または一方に生じた損害をどの程度賠償するか等については、当事者同士が話し合って(話し合っても合意に至らない場合は最終的には裁判所で民事紛争として)解決するしかありません。

 裁判所でもない行政機関(労働基準監督署など)が、当事者の一方(従業員)の味方になって、もう一方の当事者(会社)に対し、「相手方(従業員)に〇〇万円支払ってやれ!」などと命じる権限はないのです。

 分かりやすく言えば、交通事故の加害者に対し、警察(=行政機関)が「あなたは被害者に損害賠償として〇〇万円支払ってあげなさい。」とは言いませんし、言えませんよね。

 それと同様、行政機関である労働基準監督署が事業主に対し、「残業手当に未払いがあると認められます。従業員に未払いの残業手当〇〇万円をさかのぼって支払ってあげなさい。」と命じる権限ないというわけです。
 実際、法律上も労働基準監督署が事業主に対し、未払いの残業手当などの支払いを命じることができる根拠条文はどこにも存在しないのです。

 とは言うものの、まれに、自分たちは2年前までさかのぼって未払いの残業手当などを支払わせることができると主張する労働基準監督官がおり、その法的根拠を問いただせば、労働基準法第115条をあげる監督官がいますが、それは労働基準法の理解を間違っている監督官だと言えます。
 なぜなら、同条は会社に対する賃金請求権を有する者(労働者)が使える条文であって、会社に対する賃金請求権を有していない労働基準監督官が使える条文ではないからです。全体の奉仕者である公務員(労働基準監督官)が労働者の代理人かのごとく、労働者の賃金請求を代わって行使することができるはずもないことはご理解いただけると思います。
(憲法第15条第2項)
 よって、労働基準監督官に労働基準法第115条を根拠に未払い残業代をさかのぼって支払うよう言われても、あわてて支払わないようにして下さい。(憲法第29条第1項)

 あくまでも残業代支払いに関するトラブルは、会社と労働者の間の”民事”の問題なのです。(”故意”に残業代を支払わない場合だけが、刑罰法規である労働基準法での処罰の対象になるのであり、”過失”で残業代が支払われていなかった場合は、労働基準法や労働基準監督官の出番はありません。)
 つまり、残業代未払いなどで一方(労働者)が被った損害について、その損害額(未払い残業代)をいくらと“認定”し、その支払いを“命じる”ことができるのは、唯一、司法機関である裁判所だけなのです。

 このように、一見、労働基準法で解決できるように見える会社と従業員の間に生じた労使トラブルは、実際には私人間(国民vs国民)の関係を規定した“民法”や“労働契約法”で解決することになるということです。
 そこで、私人間(国民vs国民)の基本原則はどうなっているかと言えば、民法第1条に次のような内容が定められています。(民法第1条第1項~第3項)
 「私権は、公共の福祉に適合しなければならず、権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければなりません。権利の濫用は許しません。」

 “私権”だの“公共の福祉”だの“信義”だのと、これではちょっと分かりにくいですよね。これを分かりやすく言いかえれば、
『当事者(国民同士)の権利と権利がぶつかったら、みんなが幸せになれるような(最大多数の最大幸福の)解決を図りますよ。当事者が権利の行使や義務の履行をする際は、当事者間の約束に従って誠実に行われなければならず、いくら自分の権利といえどもそれを濫用するような行為は認めませんよ。』
ということになります。

 つまり、労使トラブルという私人間(民事上)の紛争が生じた場合も、この基本原則にもとづいて解決することになるのであって、刑罰法規である労働基準法で解決できるものではないというわけです。

この記事を書いたプロ

社会保険労務士法人ジャスティス [ホームページ]

経営コンサルタント 高正樹

広島県呉市焼山中央1丁目1-10 TAKAMATSU BLD 203号 [地図]
TEL:0823-30-3012

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
高正樹

中小企業を存続させるための最新の労務管理ノウハウを提供(1/3)

 「大切な会社を守るためのサポーターとして、常に最新の労務管理ノウハウを提供します」。そう力強く話すのは呉市焼山中央「社会保険労務士法人ジャスティス」代表の高正樹さん。「ジャスティス行政書士事務所」と「ジャスティスソリューション」の代表も兼...

高正樹プロに相談してみよう!

中国新聞社 マイベストプロ

中小企業を存続させるための最新の労務管理ノウハウの提供

会社名 : 社会保険労務士法人ジャスティス
住所 : 広島県呉市焼山中央1丁目1-10 TAKAMATSU BLD 203号 [地図]
TEL : 0823-30-3012

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

0823-30-3012

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

高正樹(たかまさき)

社会保険労務士法人ジャスティス

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
退職の申し出は、退職日の3ヶ月前までにしなければならないとする就業規則の規定は有効か?

貴社では、従業員が自己都合で退職しようとする場合には退職日の何日前までに会社に申し出なければならないこと...

[ 就業規則等 ]

マイカー通勤者等から申告された通勤距離の妥当性検証方法

 従業員の通勤に要する費用の全部又は一部を補填するための通勤手当、貴社でも支給されているのではないでしょう...

[ 賃金 ]

ご存知でしたか? 「65歳超雇用推進助成金」

 就業規則等で65歳以上への定年の引上げや、希望者全員を66歳以上まで継続雇用する制度の導入等を行った会社...

[ 助成金 ]

従業員代表の定義は?

 就業規則等の作成や変更について”意見書”に意見を記載したり、36協定をはじめとする各種の”労使協定書”に従業...

[ 就業規則等 ]

マスクを外さない従業員への対応

 最近、マスクを着けたまま業務に従事している人を見かけることがあります。特に接客される際に、意味もなくマス...

[ 労務管理 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ