コラム

 公開日: 2016-09-13 

営業社員の「みなし労働時間制」は都市伝説!?

 貴社では、「外回りの営業社員などについては残業手当は支払わなくてもいい」という”都市伝説”を信じて、営業社員などには残業手当は支払っていないということはありませんか?

 このようなことが言われている根拠は、労働基準法第38条の2第1項に
「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、(以下略)。」
という定めがあるからなのです。

 この条文をよく読んでいただければ分かるとおり、事業場外のみなし労働時間制が適用されるには次の二つの要件があります。
 ①労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事したこと。
 ②労働時間を算定し難いこと。
 この二つの要件をいずれも満たさなければ事業場外のみなし労働時間制は適用できないのですが、大半の会社で、①にだけ着目し、①の要件を満たしていれば当然に②の要件も満たしているかのごとく都合よく解釈され、労働者との間で残業手当の未払いについて紛争に発展しています。
 みなし労働時間制の適用の有無について訴訟に発展した場合、この二つの要件のうち、裁判所が重視するのは実は②の要件なのです。

 しかしながら、携帯電話などの通信機器が発展した現代においては、②の要件を満たしていると認定されることはほとんどありません。

 ですから、営業社員などに対してもきちんと残業手当(固定残業手当でも可。ただし、超過分の把握と支払い要。)を支払っておかなければ、紛争に発展した場合には、会社は多大な損害を被ることになるのです。

 そこで、以下に最高裁の判例を含め、実際の裁判例を6つほどご紹介します。裁判例を見ていただければ、営業社員などの「みなし労働時間制」の適用が都市伝説であることがご理解いただけると思います。



【1】ほるぶ賃金等請求事件、H9.8.1東京地裁判決

(争点) 展覧会場で展示販売業務に従事していた販売促進員について、みなし労働時間制の適用が争点となった。

(裁判所の判断)
 「その業務に従事する時間及び場所は限定されており、支店長等も会場に赴いている他、会場の勤務は顧客への対応以外の時間も来客の来訪に備えて待機しているもので、休憩時間とは認められないこと等から、販売促進員が展示販売業務に従事しているか否かを把握して労働時間を算定することは本来容易にできる。」
と認定し、販売促進員の展示販売についてのみなし労働時間制の適用を否定。


【2】千里山生活協同組合賃金等請求事件、H11.5.31大阪地裁判決

(争点)
 タイムカードによって労働時間管理を行われていた配達業務に従事する者について、就業規則の定めにもとづくみなし労働時間制の適用が争点となった。

(裁判所の判断)
 「配達業務に従事する者を含めて、労働時間はタイムカードで管理されているのであるから、労働時間を算定し難い場合には当たらないことは明らかである。現実に労働時間を算定できるにもかかわらず、事業場外であるという理由だけで、所定労働時間しか労働しなかったこととみなすことができる制度ではないことは言うまでもない。」
とし、配達業務に従事する者についてのみなし労働時間制の適用を否定。


【3】大東建託時間外割増賃金請求事件、H13.9.10福井地裁判決

(争点)
 タイムカードによって労働時間管理を行われていた事業場外での営業活動も行うテナント営業社員について、事業場外労働に関する労使協定にもとづくみなし労働時間制の適用が争点となった。

(裁判所の判断)
 「テナント営業社員などの始業・終業時刻はタイムカードによって管理把握され、かつ、事業場外での労働時間中も携帯電話を通じた事業場の連絡・指示により常時管理されていたのであるから、事業場外での労働は会社の指揮監督下にあったものと認めるのが相当である。よって、事業場外での労働時間の算定はタイムカードにより把握された実労働時間によるべきである。」
とし、事業場外での労働もあるテナント営業社員についてのみなし労働時間制の適用を否定。


【4】サンマーク残業手当等請求事件、H14.3.29大阪地裁判決

(争点)
 訪問先への訪問時刻と退出時刻を報告する制度のもとで勤務していた情報誌の広告営業社員について、みなし労働時間制の適用が争点となった。

(裁判所の判断)
 「広告営業社員が担当した業務は、格別高度な裁量を必要とするものではなく、訪問先における訪問時刻と退出時刻を報告するという制度によって管理されており、個々の訪問先や注文者との打ち合わせ等について、会社の具体的な指示はされないものの、広告営業社員が事業場外での営業活動中に、その多くを休憩時間に当てたり自由に使える裁量はないというべきで、事業場を出てから帰るまでの時間は、就業規則上の休憩時間以外は労働時間であったというべきである。会社による具体的な営業活動についての指揮命令は基本的になかったものの、広告営業社員の労働自体については、会社の管理下にあったもので、労働時間の算定が困難ということはできない。」
と認定し、広告営業社員についてのみなし労働時間制の適用を否定。


【5】光和商事解雇無効確認等請求事件、H14.7.19大阪地裁判決

(争点)
 朝会社に出社して毎朝実施されている朝礼に出席し、その後外勤に出て、基本的に午後6時までに帰社して事務所内の掃除をして終業となる貸金等の営業社員(会社所有の携帯電話貸与)の外勤について、みなし労働時間制の適用が争点となった。

(裁判所の判断)
 「営業社員は、メモ書き程度の簡単なものとはいえ、その日の行動内容を記載した予定表を会社に提出し、外勤中に行動を報告したときは、会社においてその予定表の該当欄に線を引くなどしてこれを抹消しており、さらに会社所有の携帯電話を営業社員全員に持たせていたのであるから、会社が労働時間を算定することが困難であるということはできない。」
と認定し、営業社員についてのみなし労働時間制の適用を否定。


【6】阪急トラベルサポート残業代等請求事件、H26.1.24最高裁第二小法廷判決

(争点)
 携帯電話を貸与され、添乗日報の提出も義務づけられていた海外旅行の添乗員について、みなし労働時間制の適用が争点となった。

(裁判所の判断)
 「会社は添乗員に対し、国際電話用の携帯電話を貸与し、常にその電源を入れておくものとしたうえで、問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には、会社に報告して指示を受けることを求めている。また、会社は添乗日報を作成し提出することも指示しており、添乗日報の記載内容は、旅行日程が日時や目的地等を明らかにして定められることによって、業務の内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているということができる。これらにより、会社は添乗員の旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる。以上のような業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると、添乗員の勤務状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働時間を算定し難いとは言えないと解するのが相当である。」
と認定し、添乗員についてのみなし労働時間制の適用を否定。


 いかがでしょうか。このように、地裁のみならず最高裁においても、事業場外のみなし労働時間制は認められないことが多いのです。
 タイムカードで労働時間を管理していたり、日報を提出させていたり、携帯電話を貸与していたりすれば、まずみなし労働時間制の適用が認められるとは考えないほうが無難です。これが「みなし労働時間制は都市伝説である」と言った理由です。

 よって、事業場外で業務に従事する従業員(営業社員など)についても、事業場内で勤務する従業員と同様に働いた時間分の残業手当、または一定時間分の残業手当を支給するようにしておくべきです。
 残業手当を一定時間分の固定的な残業手当として支給することは問題ありませんが、それが残業手当としての趣旨で支給され、何時間分が支給されているものかがハッキリと分かるように、給与明細書や賃金規程などに明示しておくことが必要です。
 しかも、実際の残業時間により計算された残業手当額が固定の残業手当相当額を上回る場合には、その差額(超過分)もきちんと支払っておかなければなりません。

 今一度、貴社の「賃金規程」や「給与明細書」がみなし労働時間制の適用でトラブルになった際、紛争に勝ち抜けるものになっているか否かを確認しておいて下さいね。

この記事を書いたプロ

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経営コンサルタント 高正樹

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