コラム

 公開日: 2016-09-12 

残業の有無・時間数について合意が成立すれば・・・

 もし、貴社で従業員や元従業員との間で残業についてトラブルになった際、その従業員との間で実際に残業と言える業務をしていたか否か、していた場合にはその時間は何時間かなどについて合意に至った場合には、必ずその内容は「合意書」などの書面にしておいて下さい。
 そうすれば、その未払い残業に関するトラブルについて労働基準監督署などの部外者が何と言おうと、その合意書により当事者が合意した内容で幕引きを図ることができるのです。(労働基準監督署は当事者が合意している以上、その合意内容に口を挟むことは、行政機関の「民事不介入の原則」からもできません。)

 さらに言えば、合意書を取り付けておけば、後から従業員から合意書の内容と異なる時間数の残業をしていたことが確実に証明される資料などが出されてきたとしても、いったん合意した内容をくつがえされることはないのです。
 これについては、裁判所【新評事件、H4.7.23東京高裁判決】でも以下のように判示されています。
 『・・・右合意には、時間外労働の一部については賃金を払わないとか、労働基準法に定める割増賃金部分は払わないという趣旨は含まれていない。
 そうすると、控訴人(=従業員)の主張するように、右合意が労働基準法に違反し、無効であるということはできない。
 そして、時間外賃金の支払いを定めた右合意は、時間外労働の有無及びその時間数、したがって時間外賃金請求権の有無及び額について争いがあり、相互の互譲の結果定められたものであるから、民法第695条にいう和解契約と解される。
 そうすると、仮に控訴人(=従業員)がその主張する時間数の時間外労働をしていたことが証明されたとしても、右合意で確定した金額を超える部分の時間外賃金請求権は、民法第696条により消滅したということになり、右合意により算定された金額に加えて別に時間外割増賃金部分を請求する余地もない。』

 ここで、ポイントとなる民法第696条(和解の効力)を抜粋しておきます。↓↓
 「当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。」

 この条文の内容をわかりやすく簡単に言えば、「いったん和解した以上、たとえ後から和解したことと違った確証が出てきても、もはや和解の内容を変更することはできない。」ということです。

 ただ、上記の裁判の中でも言われていたとおり、その合意の内容に、時間外労働の一部については賃金を支払わないとか、労働基準法に定める割増賃金は支払わないなどという内容の合意がなされていた場合には話は別です。
 強行法規である労働基準法の定めを無視するような、このような合意は、たとえ当事者が本意で合意していたとしても、民法第90条の定めにより公序良俗に反する契約として“無効”とされます。

 つまり、従業員との間の合意が和解契約と認められて有効とされるのは、残業の有無と時間数、それに対する残業手当の支払い額についての合意であって、残業をしていたが残業手当は支払わないというような合意は認められないということです。
 もっとも、残業手当の請求権があることを知りながら、従業員が自由な意思でその請求権(賃金請求権)を放棄することは問題ありません。

 このように、未払い残業手当についてトラブルが生じ、それが和解に至った際には、労働基準監督署などの部外者に口出しさせないためにも、後日確証が出てきたとしてトラブルを再燃やさせられないようにするためにも、面倒でも必ず適切な内容の「合意書(=民法上の和解契約書)」を交わすようにしておいて下さいね。

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