コラム

2015-07-10

弁護士コラムvol.103 「嫡出推定と法律上の父子関係」 松浦亮介

山下江法律事務所 弁護士 松浦亮介

嫡出推定と法律上の父子関係

 DNA鑑定によって夫Hと子どもCは生物学上の親子ではないことが明らかになった――。このようなことが現実に起こったとき,法的にはどのようなことが想定されるでしょうか。今回は,法律上の実子関係(特に父子関係)を取り上げてみます。キーワードは「嫡出推定」です。
 説明の便宜上,婚姻関係にある夫H・妻W,Wが出産した子C,Wの不倫相手(Cの生物学上の父)Lとします。

1 母子関係
 法律上の母子関係は,分娩(出産)の事実によって当然に生じるとされています。WがCを出産したという事実によって,法律上もWとCの母子関係が認められるもので簡明です。生殖補助医療の発展により代理出産など複雑なケースも出てきていますが,現在のところ,卵子提供者と子との法律上の母子関係は認められていません(最決平成19年3月23日判タ1239号120頁)。

2 父子関係
(1)嫡出推定
 一方,自ら出産することのない男性については,生まれた子の父が誰かは母子関係ほど単純には判断できません。
 この点,法は,原則として,婚姻中に妻が妊娠した子の父は妻の夫であると推定してそのように扱うことにしています。民法772条の「嫡出推定」の規定がそれです。この子を「嫡出子」といいます。
 民法第772条
  第1項 妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
  第2項 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。
 嫡出子ではない子,典型的には婚姻関係にない男女間に生まれた子については,法律上の父子関係は「認知」という手続を行うことによって生じます(民法779条以下)。
 冒頭の例では,夫Hと妻Wは婚姻関係にありますので,WがCを妊娠したのが婚姻期間中であれば,上記の嫡出推定(第1項の推定)を受けて,Cの父はHと推定され,原則としてそのように扱われます。妊娠時期が判然としない場合のために第2項の推定が設けられており,婚姻後200日経過後又は離婚等から300日以内に生まれた子は婚姻期間中に妊娠されたと推定される結果,第1項と第2項の推定が合わさって夫の子と推定されることになります。ただし,あくまで推定ですので,医学的に妊娠時期を明らかにできれば第2項の推定を覆すことは可能です。例えば,WがCを出産した時期が離婚から280日目だったとしても(この場合,第2項の推定を受けます),その妊娠時期が離婚後であることを医学的に証明できるなら,その推定は覆されるので,嫡出推定は働かず,Hを父としない非嫡出子としての出生届が可能です(その後LがCを認知すればLとCの法律上の父子関係が生じます)。
 他方,妊娠時期が婚姻中の場合は,嫡出推定を排除できないため,Cの法律上の父はHと扱われます。仮にWがHを父としない出生届をしたいと思っても,このような届は受理されません(そのため出生届の提出自体がされず,無戸籍の子が生じる原因になっていると指摘されています)。

(2)父子関係を争えるか?――嫡出否認――
 さて,冒頭の例に戻ると,HとWは婚姻関係にあるため,WがCを妊娠したのが婚姻期間中であれば,嫡出推定を受け,たとえ,生物学上の父がLであったとしても,HがCの法律上の父として扱われます。
 では,後日,DNA鑑定によって真実を知ったHは,Cとの法律上の父子関係を否定できるでしょうか。妻W,子C或いは生物学上の父Lが法律上の父子関係を生物学上の父子関係と一致させたいと願ったとき,それは叶うでしょうか。
 嫡出推定が働く場合,民法は,夫Hにのみ,父子関係を否定する方法を認めています(民法774条以下)。嫡出否認という手続で,Hがこれを希望する場合は,Cが生まれたことを知ってから1年以内に手続をとる必要があります(期間経過後は父子関係を否定することは認められていません。最判平成26年7月17日判例集未登載)。
 逆に言うと,嫡出推定が働く場合,W,C,Lらから,HとCの法律上の父子関係を否定する方法は認められていません。たとえ,DNA鑑定で,生物学上はCの父はLであることが立証できたとしても,これは変わりません(最判平成26年7月17日裁時1608号6頁は,DNA鑑定があり,しかも,HとWは既に離婚し,現在はW・L・Cが生活を共にしている,というケースで,CからのHとCとの父子関係不存在確認の訴えを不適法として却下しています)。
 ここで「嫡出推定が働く場合」との前提が重要になってきます。嫡出推定が働かない場合(例えば,妊娠が分かった後に婚姻したケースや,婚姻期間中に妊娠したものの妊娠時期にHとWが既に別居していて全く夫婦間の交流がなかったケースなど)には,たとえ,出生時にHとWの嫡出子として出生届がなされていたとしても,父子関係を否定するために嫡出否認の手続による必要はなく、父子関係を否定できるのがHのみという制限もありません。ここでは,H,W,C,Lの全員が,いつでも,HとCの父子関係を否定することが可能です(親子関係不存在確認の訴えなど)。
 
 以上,今回は,嫡出推定をキーワードに法律上の父子関係について簡単に述べました。嫡出子か非嫡出子かという問題については,平成25年に最高裁が相続分の差について違憲との判断を示し(最大決平成25年9月4日民集67・6・1320),その後,国会による民法改正で是正されました。しかし,父子関係自体が争いになるような場面では,嫡出子か否か,嫡出推定を受けるか否か,によって生じる違いはなお決定的に大きなものがあります。
 今回詳しくは説明できませんでしたが,嫡出推定が働くかどうかという点については細かな具体的な事実関係によって判断されるものですので,万が一,冒頭のようなことがあなたの身に起こった場合には,一度,当事務所へ相談してみてください。


 執筆者:山下江法律事務所 弁護士 松浦 亮介 (広島弁護士会所属)

弁護士・松浦 亮介のプロフィール

■山下江法律事務所/相続専門サイト「遺産分割」 

■弁護士コラムバックナンバー【相続】
・vol.99 「未成年の子どもがいる方は遺言を書こう」 加藤泰 2015/5/15
・vol.96 「相続人がいない人の遺産はどうなるの?」 稲垣洋之 2015/4/3
・vol.93 「遺産分割協議と行方不明者」 青山慶子 2015/2/20
・vol.92 「亡くなった親の介護をしていた相続人は通常より多くの遺産を取得することが出来るのか」 久井春樹 2015/2/6
・vol.89 「相続税制の改正」 松浦亮介 2014/12/26
・vol.83 「遺言無効確認訴訟」 山口卓 2014/10/3
・vol.71 「成年後見制度とは何ですか?」 新名内沙織 2014/7/18
・vol.71 「これからの信託」 加藤泰 2014/4/4
・vol.70 「将来認知症等になった場合に備える任意後見契約」 笠原輔 2014/3/20 
・vol.66 「エンディングノート」 副所長 田中 伸  2014/1/24
・vol.59 「非嫡出子の相続分」 城 昌志 2013/9/27 
・vol.58 「嫡出でない子」 齋村美由紀 2013/9/13
・vol.52 「相続(その4)」 副所長 田中伸 2013.6.21
・vol.46 「相続でトラブルになりやすいケースについて」 蔦尾健太郎 2013.3.22
・vol.43 「ペットに財産を残せるか」 山本淳哲 2013.2.8 
・vol.41 「身近な人の判断能力に衰えを感じたら」 片島由賀 2013.1.11
・vol.38 「遺産分割の対象となる財産の範囲」 山口卓 2012.11.22
・vol.35 「相続(その3)」 副所長 田中伸 2012.10.12 
・vol.28 「遺産相続でもめた場合には」 城昌志 2012.7.6 
・vol.26 「遺言書の方式」 山本淳哲 2012.6.8 
・vol.19 「成年後見制度について」 山口卓 2012.3.2
・vol.16 「相続(その2)」 副所長 田中伸 2012.1.20
・vol.9 「遺産相続でもめないために」 齋村美由紀 2011.10.7
・vol.1 「相続」 副所長 田中伸 2011.6.17
 
弁護士コラム一覧

この記事を書いたプロ

山下江法律事務所 [ホームページ]

弁護士 山下江

広島県広島市中区上八丁堀4-27 上八丁堀ビル703 [地図]
TEL:0120-7834-09

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

3

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
お客様の声

交通事故の解決事例をマンガで紹介しています山下江法律事務所 交通事故専門サイトトップページ ↓↓↓http://www.hiroshima-jiko.com/■その他の事例もご参照くだ...

相談料

無料相談について、詳しくはこちら↓をご覧下さい。■交通事故専門サイト■借金問題専門サイト相談予約専用フリーダイヤル0120-783409 (なやみよま...

 
このプロの紹介記事
山下江 やましたこう

依頼者に笑顔になってもらうために、全力を尽くします。(1/3)

 ドアを開けると、ずらりとスタッフの並ぶカウンター。案内された部屋で待っていたのは穏やかに微笑む山下江さん。まるで大病院の受付みたいですねと感想を伝えると、「そうですか? ハハハハ」と楽しげに笑う山下さん。山下江事務所は、弁護士15人・秘...

山下江プロに相談してみよう!

中国新聞社 マイベストプロ

「親切な相談」「適切な解決」これが私たちのモットーです。

事務所名 : 山下江法律事務所
住所 : 広島県広島市中区上八丁堀4-27 上八丁堀ビル703 [地図]
TEL : 0120-7834-09

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

0120-7834-09

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

山下江(やましたこう)

山下江法律事務所

アクセスマップ

プロのおすすめコラム
広島の弁護士・江さんの何でも法律相談「離婚したいと思っているのですが…」
イメージ

2016/9/26(月)13:30~FMちゅーピー(76.6MHz)「なやみよまるく~江さんの何でも法律相談」での、OA内容をお届...

[ 法律相談 ]

広島の弁護士・江さんの「10月22日(土)三本松進先輩が最新ベンチャーを語る・・・」ほか
イメージ

 10月22日(土)三本松進先輩が最新ベンチャーを語る(第31回KKC交流会)  修道中高及び東大の2年先輩であり...

[ ブログ ]

広島の弁護士・江さんのお知らせ「保険代理店様向け相続セミナー開催」
イメージ

 山下江法律事務所は、保険代理店様向けの相続セミナーを開催します。 近時、相続に注目が集まっています。保...

[ お知らせ ]

広島の弁護士・江さんの何でも法律相談「子の親権を取れますか?」
イメージ

2016/9/19(月)13:30~FMちゅーピー(76.6MHz)「なやみよまるく~江さんの何でも法律相談」での、OA内容をお届...

[ 法律相談 ]

弁護士コラムvol.133 「いわゆるマルチ商法に関与してしまった場合」 新名内 沙織
イメージ

 いわゆるマルチ商法に関与してしまった場合  いわゆる「マルチ商法」や「ネットワークビジネス」に関与し...

[ 弁護士コラム ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ