コラム

2014-08-22

弁護士コラムvol.80 「法律上の父子関係について」 副所長・田中伸

山下江法律事務所 副所長・弁護士 田中伸

法律上の父子関係について

 最高裁判所は,本年7月17日,DNA鑑定で生物学上の父子関係がないことが明らかになったとしても,法律上の父子関係を否定することはできないとする判決を言い渡しました。
 この最高裁判決は,新聞等でも報道されましたので,ご存じの方も多いと思いますが,今回のコラムで解説したいと思います。

1 嫡出推定制度
 今回の最高裁判決を理解するためには,まず「嫡出推定制度」を理解していただく必要があります。
 民法772条は,妻が婚姻中に懐胎(妊娠)した子は夫の子と推定するとともに(同条1項),婚姻成立の日から200日経過後に生まれた子,また,婚姻解消の日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定しています(同条2項)。
 そして,同条により嫡出推定を受ける子について,嫡出であることを争うためには,夫が子の出生を知った時から1年以内に,夫から嫡出否認の訴えを提起しなければなりません(民法774条~777条)。
 これが嫡出推定制度です。民法が制定されたのは明治時代であり,当時は生物学上の父子関係を確認することは極めて困難な状況でした。そこで,民法は,子の福祉のためには,早期に法律上の父子関係を確定し,子の身分を安定させることが重要であるとして,嫡出推定制度を設けたと考えられます。

2 民法772条の嫡出推定が及ばないケース
 民法772条2項の期間内に妻が子を出産しても,嫡出推定が及ばないケースがあります。それは,妻が子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていたり,夫婦が遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情がある場合です。例えば,夫の海外赴任中に妻が妊娠した場合などです。
 この場合は,民法772条の嫡出推定が及ばないため,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子の父子関係の存否を争うことができます。前記の嫡出否認の訴えとは異なり,夫だけでなく,子からも訴えることができますし,1年という期間制限もありません。

3 今回の最高裁判決の内容
 今回の最高裁判決のケースは,生物学上の父と一緒に暮らしている子と妻側が,生物学上の父子関係がない夫を相手に,親子(父子)関係不存在の確認を求めたものです。
 争点は,前記2のような事情がないものの,DNA鑑定により夫と子の生物学上の父子関係が否定された場合に,前記1の嫡出推定が働くのか否かでした。
 最高裁は,前記1の嫡出推定制度は,身分関係の法的安定を保持する上で合理性があり,今回のようなケースでも前記1の嫡出推定が働くと判断して,親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできないとし,生物学上の父子関係がない夫と子について,法律上の父子関係を維持しました。

4 今後について
 今回の最高裁判決では,5人の裁判官のうち3人は賛成しましたが,2人は反対意見を述べています。
 反対意見を述べた裁判官は,子が生物学上の父と一緒に生活しているなど,子が生物学上の父と法律上の父子関係を確保できる状況にある場合には,親子関係不存在確認の訴えを認めるべきであると述べています。また,判決に賛成した裁判官も,補足意見の中で,立法政策の問題として検討すべきだと指摘しています。 
 このように,この問題は,裁判手続での解決が困難さを増している状況にあり,法改正など,今後の動向が注目されます。

 嫡出推定制度など,法律上の父子関係について,お困りのことがありましたら,当事務所にご相談ください。

 執筆者:山下江法律事務所 副所長・弁護士 田中伸 (広島弁護士会所属)


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