コラム

2013-11-08

弁護士コラムvol.61続編 「続・NHK受信料と契約自由の原則」 松浦亮介

山下江法律事務所
山下江法律事務所 弁護士 松浦亮介
 前回の弁護士コラム(vol.61「NHK受信料と契約自由の原則」http://mbp-hiroshima.com/law-yamashita/column/7341/)でNHK受信料に関する横浜地裁相模原支部判決平成25年6月27日を紹介しましたが,その後間もなくして,この控訴審判決が東京高裁から出されたとの報道に接しました。受信契約成立時期について横浜地裁相模原支部判決とは異なる判断がなされたようです。今回は,Vol.61の続編として,この最新の東京高裁判決を見てみましょう。Vol.61未読の方は先にそちらをご覧下さい。説明の便宜上,前回同様,Bさんを「テレビは設置しているものの受信契約を締結していない人」の代表とします。

1 東京高裁判決平成25年10月30日
(1)申込みから2週間経過で受信契約成立
 今回の東京高裁判決が新しいのは,受信契約の成立時期を,「NHKからBさんへの受信契約締結『申込み』から2週間を経過した時」とした点です。
 この点,実はNHKは第1審段階から,「申込み」から2週間経過で受信契約が成立すると主張していましたが,横浜地裁相模原支部判決は,そのような放送法の解釈を否定し,受信契約の成立は「(Bさんに「承諾」の意思表示を命じる)判決の確定時」としていました。今回は,東京高裁が控訴審として,これをひっくり返したかたちです。
 東京高裁判決の詳細は明らかではないのですが,報道によれば,放送法が受信契約締結義務を定めているのに判決確定まで受信契約が成立しないことが不合理であること,受信契約を締結して受信料を支払っている人との間の不公平が生じること,といった実質的な価値判断が同判決の基礎になったようです。

(2)「承諾」なしでの契約成立
 東京高裁判決が特異なのは,Bさんの「承諾」の意思表示がなくても受信契約が成立するとしている点です。
 Vol.61で説明したように,契約は,「申込み」と「承諾」の意思表示が合致して成立するのが大原則です。横浜地裁相模原支部判決は,この枠組みに沿った判断となっており論理構成としては受け入れやすいものでした。
 他方,今回の東京高裁判決は,「承諾」なしに契約成立を認めるもので,表面上,受信契約の成否を論じてはいても,もはや放送法という「法律」によって受信料が生じるという判断に近いのかもしれません。そうだとしても,「受信設備を設置した者は,・・・(NHKと)受信についての契約をしなければならない。」(放送法64条1項)と,「契約」という言葉を用いている放送法の解釈として,東京高裁判決の示した解釈が正しいのかどうかという問題が残ります。先に紹介したとおり,一度は,横浜地裁相模原支部判決がこのような放送法の解釈を否定していますし,他の裁判所はまた別の解釈を示す可能性は十分にあるように思います。

2 新判決の実務上の意義
 ところで,既にNHKから訴訟提起をされてしまったBさんの立場に立った場合,受信契約成立時期につき,「判決確定時」とした横浜地裁相模原支部判決と,「『申込み』後2週間経過時」とした東京高裁判決は,どちらも受信料支払いを命じる結論に変わりはなく,正直大差なさそうです。今回の東京高裁判決に何か新しい意義があるのでしょうか。
 NHKにとっては大いに意義があるのでしょう。だからこそNHKは控訴をしていたはずです。さしあたり次の点に思い当たります。

(1)支払督促
 NHKが受信契約の未契約者に受信料を払わせたい場合,受信契約成立が「判決確定時」であれば,NHKは,未契約者一人一人に対して正式な訴訟を提起して,受信契約締結の「承諾」を命ずる判決を得なければなりません。しかし,訴訟となれば,NHKは1件1件に代理人をたてるなどして対応しなければなりませんから,多数の未契約者を相手にすることは現実的ではないでしょう。
 ところが,「『申込み』後2週間経過時」に受信契約が成立するとなれば,裁判所には,その受信契約に基づいて既に発生している受信料の支払いを命じてもらえば足ります。これは純粋な「金銭・・・の給付を目的とする請求」ですので,通常の訴訟ではなく「支払督促」という簡易な手続を用いることが可能になります(民事訴訟法382条)。支払督促は,ごく簡単に言うと,書面のやりとりのみで裁判所が金銭等の支払命令を出してくれるものです。書面のみで手続可能なため,通常訴訟と比べて大幅に負担を軽減できそうです。NHKが本気で多数の未契約者を相手にしようと考える場合,この違いは大きいかもしれません。

(2)遅延損害金
 また,「『申込み』後2週間経過時」に受信契約が成立すれば,当然受信料支払義務もその時に確定的に生じますので,NHKは「受信契約してください」ではなくより直截に「受信料を払ってください」と言えるようになりますし,受信者がこれを放置すればその分だけ遅延損害金が積み重なってくることにもなります。これは,受信者が自発的に受信料を支払うインセンティブとして作用してくるのではないかと想像します。

 以上,今回は,NHK受信料に関する最新の東京高裁判決について検討しました。東京高裁の判決ということでその存在はやはり大きいのですが,微妙な判断を含んでおり,受信契約の成立時期については,なお流動的と考えます。NHK受信料に関して判断に困ることがあれば当事務所への相談をご検討下さい。


 執筆者:山下江法律事務所 弁護士 松浦 亮介 (広島弁護士会所属)

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