コラム

 公開日: 2013-10-25  最終更新日: 2014-07-04

弁護士コラムvol.61 「NHK受信料と契約自由の原則」 松浦亮介

山下江法律事務所
山下江法律事務所 弁護士 松浦亮介
「受信契約はしたがNHKはみていない。だから受信料は払わない」(Aさん)
「受信契約を強制されたくない。だから契約しない。もちろん受信料は払わない」(Bさん)
 AさんBさんの気持ちは,素朴な感情として理解できますが,法律的にはどうなるのでしょうか? 今回は,NHK受信料の支払義務について,裁判例をもとに検討してみたいと思います。

1 契約自由の原則
 わたしたち市民同士の私人間(しじんかん)の法律関係には「自分のことは自分で決める」という私的自治の原則が妥当しており,契約はその分かりやすい現れです。
 通常,契約は,「1万円で売ってください」(申込み)と「はい,売ります」(承諾)という,契約当事者双方の「申込み」と「承諾」の意思表示が合致することで成立します。逆に言えば,「売りません」「あなたには売りたくない」「10万円なら売る」など,契約するかどうか,誰と契約するか,どんな契約にするかなど自由に決められます(契約自由の原則)。他方で,契約が成立すると,その内容のとおり買主には1万円の支払義務,売主には売買目的物の引渡義務が生じます(契約の拘束力)。
 冒頭のAさんはNHKと受信契約をしているということですので,その受信契約に基づいて受信料の支払義務が生じています。NHKは訴訟等により支払の強制も可能です。ここでは契約自由の原則との齟齬はありません。

2 裁判例(横浜地裁相模原支部判決平成25年6月27日)
 ではBさんはどうでしょうか。契約していないのだから支払義務もないというのが私的自治からの自然な結論ですが,NHKの受信料についてはそう単純ではありません。裁判例(横浜地裁相模原支部判決平成25年6月27日等)はBさんに受信料の支払を命じています。それも,過去に遡ってテレビを設置した時からの分の支払です。同判決の論理を確認してみましょう。

(1)契約締結義務
 まず,放送法64条1項が「受信設備を設置した者は,・・・(NHKと)受信についての契約をしなければならない。」と受信契約の締結義務を定めています(この規定は契約締結の自由に対する重大な制約ですが,裁判例(東京高判平成22年6月29日等)は合憲と判断しています)。ただし,同条項だけでは,受信料支払義務はまだ生じません。契約締結義務と契約成立(及びそれに基づく支払義務の発生)は別物です。

(2)承諾擬制による契約成立
 ここでは,「裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる」とする民法414条2項但書が使われます。同規定により,NHKの請求を認める判決が,NHKからの受信契約締結の申し込みに対するBさんの承諾の意思表示の代わりになります。その判決が確定すると,NHKからの「申込み」とBさんの「承諾」の意思表示が合致することになり受信契約が成立します(民事執行法174条1項)。

(3)契約内容に基づく受信料支払義務の遡及
 続いて,受信契約成立により受信料支払義務が生じるのは仕方がないとして,契約成立時以降の受信料ではなく,過去の分の受信料まで遡って払わないといけないのは何故でしょうか? これは成立した受信契約の内容の問題です。受信契約の内容は, NHKが作成しているNHK放送受信規約により決まります(放送法64条3項)。そして,同規約には丁寧にも,「受信機の設置の月から・・・受信料(消費税および地方消費税を含む。)を支払わなければならない。」と明記されており(同規約5条1項),Bさんはこの契約内容に拘束されます。

(4)まとめ
 こうして, Bさんは,(法により強制されたにせよ)自分がNHKとの間で締結した契約の内容に沿って,過去に遡ってテレビを設置した月からの受信料の支払義務を負うことになりました。裁判例の論理は契約自由の原則を制約しつつもなお「契約」の枠内で完結しているといえます。
 なお,契約締結が強制され,その内容もNHKが規約で決められるとなると,NHKが好き勝手できるのではないか,と不安になりますが,放送法上,規約の内容は総務大臣の認可を受けることになっており,そこで内容の合理性が担保される仕組みになっています(同法64条3項)。また,実は,横浜地裁相模原支部判決も,受信料支払義務が過去に遡るという点については,単に規約に書いてあることのみで認めているわけではなく,国会制定法たる放送法がもともとそのような仕組みを予定しているのだとの解釈を示しています。これは,契約といえども場合によってはその内容に制限を受けうることが背景にあるからでしょう(これも契約自由の原則への別の形での制約です)。

 以上,今回は,裁判例を紹介しながらNHK受信料について検討してみました。この結論に納得できるかどうかは別にして,テレビはあるけど受信料を払っていないという人はご留意下さい。ただ,これは最高裁判所の統一的な判断というわけではありませんので,今後も裁判例とは異なる判断が出る可能性はなくはありません。また,裁判所の判断は個々の具体的な事実関係によっても変わるものです。もし,あなたのところへNHKからの訴状が届くようなことがあれば,当事務所への相談も選択肢に入れてみてください。


 執筆者:山下江法律事務所 弁護士 松浦 亮介 (広島弁護士会所属)

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