コラム

2012-03-09

「立ち上がった声」

子供の頃、とても不思議に思っていたことがある。
それは、電話を受けたときの母親の声。

怒っている最中でも、機嫌の悪いときでも
リーンと鳴る受話器を握った途端、よそ行きの声になるのだ。

「はい、○○でございます」という第一声は、別人のようだった。
これは、昔も今もどこの家庭でも同じ現象だと思うが。

子供の頃、不思議に思ったその現象が、声の原理にかなっていることに
今になって気づき納得している今日このごろ。

////////////////////

ちょっと専門的な話になるかもしれないが、
「話し始めの声」と、「話し終わりの声」は違うのだ。

「話し始めの声」とは「咽頭を少し引き上げた声」。

指をのどに当ててみるとわかるのだが、口を閉じた状態で収まった
のどの起伏は、言葉を言い終わった時点の状態になっている。

その位置に指を当てたまま、「もしもし」と声を出してみたら、
のどの出っ張りが指の位置よりも上の方に移動しているのがわかる。

その上の方に移動している状態が「話し始めの声」なのだ。

喉が下がった「話し終わりの声」は
暗くて、やる気のない声に聞こえる。



////////////////////

パソコンに向かって作業をし、黙ったままの喉の状態で
電話を受けると、第一声はかなり暗くなる。

やはりここは惰性で話すのでなく、「咽頭を引き上げて」
「伝わる声」にしなくてはならないのだ。

これを声の業界では「立ち上がった声」というのだけど、
昔の(今もかな)お母さんたちは自然にそれを体得していたわけだ。素晴らしい!

電話に限らず、コミュニケーションはいつもひと呼吸置いて、
「立ち上がった声」を心がけたいもの……。

織田直子

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